長野地方裁判所伊那支部 昭和48年(ワ)27号 判決 1976年1月28日
原告 旭電工株式会社
右代表者代表取締役 近藤正彦
右支配人 今村邦彦
被告 小沢電工有限会社
右代表者代表取締役 小沢勝人
右訴訟代理人弁護士 辰口公治
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
1、被告は原告に対し金八三三万二〇八〇円およびこれに対する昭和四八年三月二〇日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。
2、訴訟費用は被告の負担とする。
3、仮執行の宜言。
二、被告
(本案前の申立)
主文同旨。
(本案の申立)
1、原告の請求を棄却する。
2、訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
一、原告の請求原因
1、原告は電気機器部品の製造を主たる目的とする株式会社であり、被告は通信及電気機械器具の製造を主たる目的とする有限会社である。
2、原告は被告の註文により、被告に対し、昭和四六年八月二八日から昭和四七年一〇月一四日までの間に炭素被膜固定抵抗器を製作して売り渡し、被告はその代金を毎月二〇日締め切りとし、翌月末日に四ヶ月先払の約束手形を交付してその支払方法としていた。
3、原告は被告に対し、右売掛代金として、金八三三万二〇八〇円の債権を有しているので、右売掛代金およびこれに対する支払期日後の昭和四八年三月二〇日から完済に至るまで商事法定利率の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二、被告の本案前の抗弁
原告会社の支配人今村邦彦は、支配人としての実質を伴なっておらず、よって、本件訴訟進行行為は、非弁護士のなした訴訟行為であるから絶対無効である。
三、請求原因に対する認否
請求原因第1項は認めるが、その余は否認する。
原告と被告とは、取引をしたことがない。
第三、証拠≪省略≫
理由
一、被告の本案前の抗弁について判断する。
1、原告の支配人今村邦彦(以下、単に今村邦彦という。)は、原告の支配人として昭和四七年一一月二〇日付で登記されており、原告の代理人として本件訴を提起したことは、当裁判所に顕著な事実である。
2、そこで、今村邦彦が支配人であるか否かについて検討すると、≪証拠省略≫によれば、原告会社の取引先に関連する会社が倒産したため、今村邦彦が原告会社の経理の面倒をみるようになったが、司法書士から支配人として登記した方がよいと言われてその旨登記したこと、同人の原告会社における主な職務内容は、経理に関する帳簿の整理であり、しかも、一ヶ月に四・五回原告会社へ行くだけであったこと、従って、今村邦彦は、原告会社の営業内容については全く関与せず、いわんや営業主に代って営業に関する行為をしたことは一度もなく、原告会社の営業実体についての知識も全くないこと、以上の各事実が認められる。
3、支配人は、営業主に代り、営業主の営業に関する一切の裁判上裁判外の行為をなす権限を有する商業使用人であり、支配人の代理権は営業主の営業の全般にわたる包括的なものであり、しかも法律によって定型化されている。以上の次第であるから、前記今村邦彦の職務内容を見れば、とても支配人といえるものではなく、従って、登記簿上支配人として登記されているとの理由で裁判上の代理権を有するものではない。
二、以上のとおり、今村邦彦が支配人ではなく、原告の訴訟代理人たり得ないにもかかわらず、本件訴を提起したのであるから、本件訴は不適法であるのでこれを却下することとし、訴訟費用については民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 田中正人)